メニュー

航空性中耳炎について

[2025.05.06]

飛行機による移動時や、高層階のビルやマンションでのエレベーターの使用時など、耳がつまったり、痛くなったりしたことはないでしょうか?

現代社会において気圧の変化を受ける状況はたくさんあり、その気圧の変化にうまく対処できないと中耳炎を起こしてしまいます。特に飛行機での気圧変化で起こる中耳炎を航空性中耳炎といいます。

私も飛行機に乗るとかなりの確率で耳が痛くなります。航空性中耳炎の予防ができていない私が解説しても信憑性がないかもしれませんが、自戒の意味も込めて文献を調べてみましたので、今回は航空性中耳炎について解説いたします。

 

耳の構造

耳は音を感じ取る器官です。
耳の穴から鼓膜までの通り道である【外耳】、鼓膜から内耳まで音を伝える【中耳】、音を感じ取る【内耳】があります。

鼓膜や耳小骨(音を伝える骨)がある中耳は小さな部屋になっており、中耳には【耳管】という鼻の奥(上咽頭)と耳をつなぐ通り道でつながっています。

 

耳管のはたらき

耳管はいつもは閉じており、あくびをしたり、嚥下(飲み込む動作)をしたりすることで耳管が開きます。

耳管には以下の3つのはたらきがあるといわれています。

中耳内の圧を大気圧と等しくするはたらき

あくびや嚥下を行うことで耳管が開くと、鼻の奥から耳にむけて空気が入るようになります。
中耳内にしっかりと空気が入った状態(中耳圧が大気圧と等しい状態)では、ちょうどいい圧で鼓膜が張るため、よく音を伝えやすくなります。

 
中耳内にたまった液体を排除するはたらき

鼻の奥から中耳にうまく空気が入らないと、中耳内の圧が下がり、粘膜から滲出液が出てきます。
その水を鼻の奥(上咽頭)へ排除するはたらきがあります。

 
鼻やのどの奥の分泌物から中耳を守るはたらき

もともと耳管は、中耳から鼻の奥(上咽頭)にむけて空気が流れやすくなっており、鼻の奥(上咽頭)から中耳へは流れにくい構造になっています。
そのため、鼻の奥(上咽頭)の病原体が中耳に入りにくくなるという防御作用があります。

これは①の中耳に空気を入れるはたらきとは逆の話ですが、中耳に空気が入るにはあくびや嚥下、耳抜きなど、何かしらの動作(能動的な換気)が必要である、ということです。

 

耳管が開きにくい原因

耳管が開かなくなると、中耳内の空気の圧が下がり、鼓膜が凹みやすくなります。
そのため、耳の詰まり感(耳閉感)痛み聞こえづらさなどの症状が出やすくなります。

耳管が開きにくくなる原因としては、

炎症によるもの(アレルギー性鼻炎や上気道炎・鼻副鼻腔炎、逆流性食道炎によって起こる耳管の腫れ)

圧迫によるもの(鼻の奥(上咽頭)の腫瘍、アデノイドによる耳管の圧迫)

年齢による筋肉や粘膜のはたらきの低下によるもの(年齢が上がるにつれ口蓋帆張筋(耳管の開大に関わる筋肉)の萎縮や粘膜下組織の減少、粘膜の繊毛運動のはたらきの低下など)

などがあります。

 

飛行機の気圧の変化によって起こる中耳炎

地表の気圧は1気圧ですが、高度が高くなると上空の大気圧は下がります。高度5,000mで気圧が地表の約半分になり、10,000mになると地表の約4分の1になります。

上空では、飛行機内は人為的に0.8気圧に保たれており、多少の圧の変化は受けにくい状況になっていますが、飛行機の上昇、下降時に気圧の変化を感じることがあります。

上昇時

上昇時は周りの大気圧が下がっていくため、中耳内にたまっていた空気が膨張します。
また、一時的に大気圧よりも相対的に中耳圧が高くなるため、耳管が開きやすくなり、中耳から鼻の奥(上咽頭)へ空気が抜けやすくなります。
そのため、上昇時には中耳炎にはなりにくいと考えられます。

 

下降時

下降時は周りの大気圧が徐々に上昇し、大気圧よりも相対的に中耳圧が下がるため、中耳内の空気の圧縮とともに、鼓膜が強く中耳側に押されます。
中耳圧が低いと耳管の粘膜も引き寄せられ、開きにくい状態にもなります。

ここでうまく耳管が開けば、中耳圧と周りの大気圧が同じ圧になるのですが、上で述べた耳管が開きにくい原因があると、下降に伴い徐々に大気圧が上がっていくのに中耳の陰圧が解除できません。
この状態が長く続くと中耳粘膜の出血、滲出液の貯留が起こり、耳閉感や強い耳痛が起こります。
これを航空性中耳炎と言い、飛行機の下降時に起こりやすいと言えます。

 

航空性中耳炎の予防、治療

鼻づまりの治療

風邪をひいている方や、アレルギー性鼻炎を持っている方で鼻がつまっている状態で飛行機に乗ると航空性中耳炎が起こりやすくなるため、飛行機に乗る前に鼻づまりを改善できるような治療を受けた方がよいでしょう。

 

耳管が開くための耳抜き、嚥下運動

地上では耳管の開大が問題ない方も、飛行機の下降時には耳管が開きにくくなること(機能的な耳管閉塞)があります。
飛行機に乗った時に耳が痛くなった経験のある方は、以下のような日頃から耳管が開くような動作を練習しておき、飛行機の下降時に実践してみましょう。
また、実際に中耳炎になってしまっても諦めずに以下の動作を実施しましょう。

  1. 嚥下運動(飲み込む動作)を少し強めに繰り返し行いましょう
    中耳に圧が加わり、鼓膜が動くようなパリパリとした音がでると中耳に空気が入っている証拠です。
  2. 飲み込む動作で耳管が開かないときは、下顎を左右に動かしながら再度嚥下運動をしましょう。
  3. それでも中耳に空気が入らないときは、耳抜き(鼻をつまみ、口を膨らますように鼻からのどの奥(鼻咽腔)に圧を加える動作)をしましょう。さらに鼻をつまんだまま鼻咽腔に圧をかけ嚥下運動も追加してみましょう。
  4. 鼻をかむときに耳に圧が加わるくらいのかみ方をマスターしましょう。
    いきなり強い鼻のかみ方をすると、鼓膜が破れたり、内耳に強い圧が加わり難聴やめまいの原因になったりします。なかなか文字では伝わらないのですが、鼓膜がパリパリする音がする程度の強さで鼻をかんでみましょう。
 
飛行機用の耳栓

最近、たくさんの飛行機用の耳栓が販売されています。飛行機の気圧の変化を感じにくくできる構造になっているようです。
私自身、飛行機に乗る際に使用したことがありますが、サイズが合っていなかったのか、使用していても耳が痛くなったことがあります。ご自身の外耳のサイズに合ったものを使用するようにしましょう。

 
自己通気の道具を使用

EarPopper®イアーポッパー;鼻から陽圧をかける機器で、陽圧をかけながら飲み込む動作をすることで耳管開大を図ります)も試してみてもいいかもしれません。滲出性中耳炎の治療で効果があるという報告もみられています。
ネットショッピングで簡単に手に入りますし、小型で持ち運びもしやすいです。

また、オトベント®という耳管開大の訓練用の風船があります。鼻から息を強く吐きだし風船を膨らませるもので、当院では小児の滲出性中耳炎の方に購入していただいています。
ただ、さすがに飛行機の中で鼻から風船を膨らませるのは少し恥ずかしいかもしれません・・

 
鼓膜切開、あるいは鼓膜チューブ挿入術

必ずといっていいほど航空性中耳炎になる方の乗る前の予防法として、また実際に航空性中耳炎になってしまい地上にいてもなかなか改善しない方への治療として、鼓膜切開術を行います。
中耳内の気圧の変化を受けることはありません(開けた穴は1週間程度でふさがります)。

また、すでに航空性中耳炎になってしまい保存的な治療で改善しない方にも、鼓膜切開術は有効な治療法です。

パイロットや客室乗務員の方など職業として日常的に飛行機に乗る方で、毎回のように航空性中耳炎になる方は、鼓膜切開した穴が閉じなくするための鼓膜チューブ挿入術も検討しましょう。

 

以上、航空性中耳炎について解説しました。

飛行機以外に、エレベーターで下降するとき、車で急な坂道を下るとき、ダイビングで深く潜るときなど、圧を受けやすい環境はたくさんあります。
ご自身の耳が悪くならないよう、事前に準備してから飛行機に乗るようにしましょう。

 

参考資料

・山口展正. エキスパートが伝授する耳管疾患診療のコツ. MB ENT, 263 : 149-155, 2021.

・山口展正. 航空性中耳炎の基礎的ならびに臨床的研究. 耳展, 29 : 353-390, 1986.

・白幡雄一. 臨床耳鼻咽喉科学: p5-7, p110-112, 2018.

▲ ページのトップに戻る

Close

HOME