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マイコプラズマ感染症について

[2024.08.25]

2024年7-8月にかけてマイコプラズマ感染症が流行してきております。

今回は、マイコプラズマに関して解説します。

 

病原体について

マイコプラズマ感染症は、肺炎マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae)という病原体の感染によって発症します。
細菌(=自力で増殖できる)とウイルス(=自己増殖できず宿主に依存する)の中間に位置する大きさ・性質で、自己増殖可能な最小の微生物として細菌に分類されています。

他の一般細菌と異なり、細胞壁を持たないため、細胞壁を壊す作用のある抗菌薬(=中耳炎や副鼻腔炎などで使用頻度が多い)であるペニシリン系(サワシリンなど)やセフェム系(メイアクトなど)は効果がないのが特徴です。

 

疫学

感染様式は飛沫感染、接触感染が主体です。

地域での感染拡大の速度は遅く、短時間での暴露では感染は拡大しにくく、家族・友人間での濃厚接触によるものが重要です。家族内での感染の拡がりは30%にみられます。

生涯にわたり複数回感染を起こしえます。

免疫反応による肺障害が起こると言われており、免疫反応が未熟な低年齢では感染はしても症状が起こりにくいと言われています。よって、5歳以上から発症する可能性が高くなり、5歳未満では稀です(2歳未満で2%、2-4歳で5%)。

かつては4年周期で流行しており、オリンピックのある年に流行したことからオリンピック病と言われたこともありましたが、1992年以降はその周期が崩れ、2011年~2012年、2016年、2019年と散発的に流行が見られています。

 

(参考)小児・各年齢層の肺炎の起炎微生物ランキング(EPIC study)

年齢

1位

2位

3位

4位

2歳未満

RS
ウイルス

ライノ
ウイルス

アデノ
ウイルス

ヒトメタニューモ
ウイルス

2-4歳

RS
ウイルス

ライノ
ウイルス

ヒトメタニューモ
ウイルス

アデノ
ウイルス

5-9歳

ライノ
ウイルス

マイコ
プラズマ

ヒトメタニューモ
ウイルス

インフルエンザ
ウイルス

10-17歳

マイコ
プラズマ

ライノ
ウイルス

インフルエンザ
ウイルス

RS
ウイルス

 

症状

潜伏期間(感染して症状がでるまで)は2-3週間程度です。

高熱を呈する事が多く、倦怠感、頭痛を伴います。

は3-5病日から目立ち、乾いた咳から徐々に痰のからんだ咳嗽になり、発作性で夜間に増悪します。解熱した後も2-4週間と長く咳が持続します。

ウイルス性の風邪とは異なり、鼻水はみられないことが多いです。

肺炎にまで至る割合は5-10%と言われています。
お家で症状がひどくなった際に肺炎を疑う場合は、胸痛、呼吸努力増加(鼻翼呼吸、陥没呼吸)の特異度が高く、喘鳴や多呼吸(1分あたり40回以上)も参考になると言われています。

そのほかに、皮疹(多型紅斑)、消化器症状(下痢など)も伴うことがあります。

 

検査 

迅速抗原検査

当院で行える検査で、のどから検体を採取します。
できるだけ痰が混ざっていた方がいいのですが、感染初期は乾いた咳が多く、なかなか良好な検体が取れません。
よって検査の精度があまり高くなく、感染していても検査でとらえられない見落としが3割ほどあると言われています。

LAMP法

簡易的に遺伝子を増幅させる検査で、院内に測定機器があれば2時間ほど、外注検査で3日後くらいに結果がわかるようです。当院では行っていません。

PCR検査

遺伝子を増幅させる検査で、かつては一部の施設しかできませんでしたが、最近測定できる機器が登場してきています。

*培養検査、血液による抗体価測定は一般的にされておりません。

以上より、一般外来では抗原迅速検査にて調べますが、感度が低く、検査が陰性と出ても安心はできないため、発熱や咳の持続期間、周囲の流行状況を考えて診断していきます。

 

治療

教科書的にはウイルス性肺炎と同様に自然に改善する疾患でもあるため、症状がひどくなければ、すべての方に抗菌薬投与も必須ではないと書かれています。
ただ、受診される方は発熱や咳で悩んでこられているため、マイコプラズマ感染症と診断が確定しても抗菌薬を使用しない選択肢をなかなか取れないのが現状です。

抗菌薬の選択ですが、上で述べたように上気道炎でよく用いられるペニシリン系やセフェム系は効果がありません。

発熱や咳など症状が強い方、肺炎を疑う方には、治療にはマクロライド系抗菌薬が使われます。
アジスロマイシンクラリスロマイシンが主な治療薬で、効果がある場合80%以上が治療48時間後に解熱が得られます。

ただ、日本ではマクロライド系抗菌薬が多用されているため、マクロライド耐性のマイコプラズマが増えており、2015年では46%が効かないと言われています。

マクロライド系抗菌薬による治療後3日以上発熱が続く場合は、テトラサイクリン系やニューキノロン系の抗菌薬を使用が薦められています。  

 

 

以上、マイコプラズマ感染症について解説しました。

周囲にマイコプラズマ感染症の方がおられ、5歳以上、発熱、咳がメインの症状であれば感染している可能性が高くなります。

なかなか検査で捉えづらい病原体ではありますが、ご心配の方はご相談ください。

 

参考資料

  • 笠井正志、伊藤健太. 肺炎. 小児感染症のトリセツ(金原出版):213-233, 2019
  • 上山伸也. 肺炎. 小児感染症の診かた・考え方(医学書院): 225-248, 2018
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