耳そうじについて
耳の中は自分で見ることができないため、「そうじをしないと耳垢がたまってしまう」とか、「お風呂の水が入ると炎症を起こすかもしれない」と思い、毎日のように耳そうじをされる方がおられます。
ただ、耳そうじをしすぎると皮膚が炎症を起こし、耳の痛みや耳だれ、出血を起こしてしまうこともあります。
今回は耳そうじについて説明いたします。
耳垢(じこう、みみあか)について
耳の穴から鼓膜までの通り道を外耳道といい、耳の穴から1㎝くらいは軟骨部、それよりも奥は骨部と呼ばれています。おおざっぱに言うと、耳の中を触っても痛くないところが軟骨部、触って痛く感じるところが骨部です。
耳垢は、耳の入り口側の軟骨部の腺組織(耳垢腺や皮脂腺)の分泌物、脱落した皮膚の角化細胞や耳毛が混在したものです。
耳の入り口側(軟骨部)で作られ、耳の皮膚の線毛で耳の外に運ばれるはたらき(自浄作用)があるため、基本的に耳垢は軟骨部にあります。
耳の奥(骨部)に耳垢がある場合は押し込まれてしまっていると考えられます。
奥の方に耳垢を押し込みすぎると、耳垢が耳栓のようになり耳が聞こえづらくなります。これを耳垢栓塞(じこうせんそく)といいます。
耳垢の種類として、湿性耳垢(べとべとした耳垢)と乾性耳垢(カサカサした耳垢)があります。ヨーロッパやアフリカの方は湿性耳垢が多く、日本人を含む東アジアの方は乾性耳垢が多いと言われています。これは遺伝子により決まっており、生まれてからずっと同じ耳垢のまま変化することはありません。
耳垢は皮膚を乾燥から守るはたらきがあると言われていますが、湿性耳垢か乾性耳垢の違いがもたらす臨床的な意義ははっきりしていません。
なお、耳垢を作る耳垢腺は腋下腺(脇の下)、乳腺、陰部腺と同じアポクリン腺であり、湿性耳垢のある方は腋臭症と関連するとの報告があります。
耳そうじのやり方
耳そうじの道具としておススメは清潔な綿棒です。木や金属製の耳かきも有用な場合はありますが、耳の皮膚を傷つけることがあるため、一度でも耳そうじで痛くなったことがある方は硬い耳かきは控えた方がいいでしょう。
耳そうじをする時間はお風呂上りがいいとされています。耳垢がふやけているため取りやすくなっています。
やり方として、耳の穴から1㎝くらい先(触っても痛くない外耳道軟骨部)まで綿棒を入れ、手前に戻るように耳の壁を一周ふき取るようにそうじしましょう。壁に沿って押し込むような動作をすると、耳垢が奥に入り込んでしまいますので、注意してください。
ご家族がお子さまの耳そうじをするときは、眼で見えているところだけそうじするようにしてください。見えないところを触るような盲目的な動作はしないようにしましょう。
最後の注意点ですが、周りに人や物がない状況+安定した姿勢で行ってください。時々、耳そうじ中に子供がぶつかってきたり、よろけて壁に腕が当たったりして、耳の中を傷つけて受診される方がおられます。お気をつけください。
耳そうじの頻度は?
先に述べたように、耳の皮膚には自浄作用があるため、耳垢がたまるだけで炎症を起こすことはありません。お風呂の水が入っても時間が経てば蒸発するため、お風呂上りに毎日耳をそうじする必要もありません。
よって、耳そうじは週に1回程度で十分とも言われております。
毎日のように耳そうじをされている方がいきなり1週間に1回に伸ばすのは難しいと思われるため、2日~3日に1回にするなど、徐々に耳そうじをしない日を設けるようにされてください。
耳のかゆみが強く、頻回に触ってしまうときはどうすればいいの?
まずは耳鼻咽喉科での診察を受けるようにしましょう。
慢性的な皮膚の炎症(=慢性外耳道炎)がある可能性が高く、かゆみが強く出るため、繰り返し掻いてしまいます。
ただ触るだけであれば炎症が長引いてしまうため、ステロイド系や抗ヒスタミン系の軟膏を塗る、抗ヒスタミン薬というかゆみを抑える薬を内服する、などの方法を検討いたします。
耳そうじで痛みが出たりや出血した場合は?
この場合も耳鼻咽喉科での診察を受けるようにしましょう。
ほとんどの方は外耳道の皮膚を傷つけていることが多い(=外耳道炎)ですが、勢いが強く奥まで損傷すると、鼓膜を破ってしまっていること(=外傷性鼓膜穿孔)があります。鼓膜の穴が残ってしまったり、破った場所によっては内耳に通じる部位を損傷して内耳性の難聴やめまいを起こすこと(=外リンパ瘻)があったりするなど、手術の必要性や難聴が残る可能性が出てしまいます。。
こどもの耳垢は取った方がいいの?
お子さまの外耳道は狭く、皮膚の新陳代謝も活発なため、耳垢がたまりやすいです。
たまりやすいだけなら何も問題はありませんが、お子さまは風邪をひきやすく、ときどき中耳炎による発熱が起こります。特に2歳未満のお子様は中耳炎になりやすいため、耳垢で鼓膜が見えないと中耳炎の診断が遅れることがあります。
お子さまの外耳道は非常に狭く、綿棒を入れるとさらに耳垢を押し込んでしまうことも多いため、耳の中が気になるときは、耳そうじだけでもかまいませんので、耳鼻咽喉科の受診をご検討ください。
以上、耳そうじについてまとめました。
小さなお子様だけでなく、小中学生でも学校検診の際によく耳垢で鼓膜が見えない方もおられます。
ご家庭での耳そうじに不安のある方は受診をご検討ください。
参考文献
- JOHNS Vol26 No9: 1356-1359, 2010
- 新川詔夫: 耳垢決定遺伝子. 日耳鼻専門医通信 98: 14-15, 2009