百日咳について
2025年は百日咳の流行が報告されています。
耳鼻科にも咳が出る方がたくさん来られるため、特に激しい空咳が続く方は百日咳も鑑別に考えなくてはいけません。
今回は百日咳について解説します。
百日咳とは?
百日咳とは、百日咳菌(Bordetella pertussis)の飛沫感染によって起こる気道感染症です。
百日咳菌が気道の線毛上皮細胞に付着し、咳を誘発する因子である百日咳毒素などを産生することで、気道の上皮細胞を傷害し、咳の発作を引き起こします。
重症化しやすい乳幼児期に感染しないようワクチン接種が推奨されていますが、その効果が切れる5~15歳の学童期や、その保護者の世代の成人の発症が増えています。
基本再生産数(感染機関に1人の患者が何人に感染させるかという指標)が12~17と感染力が強いため、ワクチン接種をしていない場合は家族内接触で9割以上の方が感染します。
成人の感染が乳幼児の感染源となっていることもあるため、早期診断が重要ですが、以下に述べる典型的な症状が少ない場合や、百日咳以外の鑑別疾患も多いため、診断の難しさがあります。
症状
潜伏期は7~10日、発症すると以下のようにカタル期→痙咳期→回復期と続きます。
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経過 |
期間 |
症状 |
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カタル期 |
1~2週間 |
軽度の上気道炎症状(鼻水、軽度の咳、結膜炎)から始まります。一般的な風邪症状と鑑別ができません。 |
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痙咳期 (けいがいき) |
2~3週間 |
徐々に咳が強くなり、重度の発作性の咳が起こるようになります。 痰のからまないコンコンと短い咳が連続的に起こり(staccato:スタッカート)、咳の後にヒューと音を立てて息を吸う動作(吸気性笛声whoop:フープ)を繰り返し(reprise:レプリーゼ)、激しい咳のため嘔吐する特徴があります。 |
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回復期 |
2~3週間 以上 |
痙咳期ほど強くはありませんが、乾いた咳だけが続きます。 |
期間中に熱が出ることは少なく、ワクチン未接種の乳児や抗体を持たない成人の方は典型的な咳症状が出ることがあります。
一方で、ワクチン接種後に少しずつ効果が切れ始める学童期以降は、発作性の咳(スタッカート)は80%ほどにみられますが、咳込み後の嘔吐は30%ほど、吸気性笛声(フープ)は20%ほどと典型的な経過をとらないこともあり、症状だけで診断するのが難しいと考えられています。
また、特に1歳未満の乳児では無呼吸やけいれんを起こすこともあり、重症化しやすいと考えられています。
診断
発症から4週以内であれば、百日咳菌を検出する方法(抗原検査、LAMP法、PCR検査、細菌培養検査)を行います。当院では抗原検査とPCR検査が可能です。
発症から4週以降であれば感染したときに上昇する抗体を調べる血液検査を行います。
抗原検査
鼻から綿棒を入れ、鼻咽頭(上咽頭)粘膜を擦り、検体を採取します。
15分ほどで結果が出ますが、感度(病気のある方が検査で陽性となる確率)50~60%(=偽陰性率40-50%)と精度は高くありません。
PCR検査
当院ではBioFire® SpotFire®というPCR検査機器を用います。
検査抗原検査と同様に鼻咽頭から検体を採取します。
新型コロナウイルスやインフルエンザなど15種類の病原体を1回の検査で調べることができ、百日咳菌も調べることができます。
20分ほどで結果も出ますし精度も高いのですが、費用が高額です(3割負担の方で4500円ほどかかります)。
抗体検査
採血を行い、抗百日咳毒素抗体(PT-IgG)の値を調べます。検査会社に提出するため、3日~5日ほど時間がかかります。
発症して3週間以上経つと、徐々に菌量が低下し、抗体が増加するため、抗体検査は4週間以上経過した方が対象となります。
PT-IgG値が100EU/ml以上であれば百日咳と診断できますが、10~100EU/dlワクチンを接種したかどうかや、時間をおいてもう一度採血(ペア血清)の結果によって、百日咳の感染があるかを診断します。
治療
マクロライド系の抗菌薬(クラリスロマイシン7日間、アジスロマイシン3日間)を主に投与します。
カタル期に抗菌薬治療を開始すると症状の改善が期待できますが、痙咳期に入ると百日咳毒素による気道上皮の傷害が残るため、いろいろな治療をしてもなかなか咳を抑えることができません。
ただ、周囲への感染を減らす目的に痙咳期に入っていても一度は抗菌薬を投与します。
そのため空咳が強い場合や、周囲の流行があるときは、積極的に検査、治療を受けた方がよいと考えます。
百日咳と診断された場合の登園、登校について
学校保健法によると、百日咳と確定した場合は、【特有の咳が消失するまで、または5日間の適切な抗菌薬療法が終了するまで】とされています。
特有の咳が出た段階では痙咳期になっており、この時期はあらゆる薬が効きにくいため、特有の咳の消失までは2-3週以上とかなりの時間がかかります。
そのため、5日間の抗菌薬内服をすることで百日咳菌が減ったとみなし、登園・登校を許可することが多くなっています。
ワクチンについて
百日咳に対するワクチンは、生後2か月から定期接種として用いる5種混合ワクチン(2024年4月~)、4週混合ワクチン(~2024年3月)の中に含まれています。この接種で乳幼児の発症や重症化がかなり減っています。
世界では定期接種の効果が切れるころ就学前(5-6歳)や小学校高学年(11-12歳)の追加接種されておりますが、日本での追加接種は任意となっており、接種されていない方が多いようです。
また、小さなお子様のおられる成人の方もワクチン接種を検討した方がいいと言われています。
*当院では百日咳のワクチン接種はしておりませんので、ご希望の方は他院をご案内しております。
以上、百日咳について解説しました。
風邪症状から続く空咳がみられるときは百日咳の可能性も出てきますので、ご心配の方は受診をご検討ください。
参考文献
・藤森勝也. 咳の診かた、止めかた. 羊土社
・咳嗽・喀痰の診療ガイドライン2025. メディカルレビュー社
