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予防シリーズ ①難聴

[2025.10.04]

予防医療とは、病気になってから治療を行うのではなく、病気にならないように対策を練る医療のことです。主な例として、感染症にかからないようにワクチンを打つ、高血圧や糖尿病、肥満にならないように運動や食事に気をつける、などが挙げられます。

そこで、耳鼻科領域での予防医療は何か?を考え、シリーズ化を試みました。

第一弾は、難聴に対する予防についてです。

 

難聴とは?

聴力検査にて評価をしますが、大きく分けて伝音難聴感音難聴に分かれます。

伝音難聴は外耳道から中耳の異常による難聴です。主な疾患として、外耳疾患(耳垢や外耳道炎などによる外耳の閉塞)、中耳疾患(急性中耳炎、滲出性中耳炎、慢性中耳炎、耳硬化症など)があります。処置や手術によって改善が期待できる難聴です。

一方、感音難聴は蝸牛(内耳)や聴神経などの聴覚中枢による難聴で、内耳性の難聴が多いです。年齢に伴って聞こえなくなるのも内耳が原因になっていることがほとんどです。
突発性難聴や音響外傷など感音難聴が突然発症した場合は、治療や自然経過によって聴力が改善することもあります。
一方で、加齢や慢性的な騒音による感音難聴が徐々に悪化した場合は、薬でよくなることはありません

 

難聴が認知症に与える影響

2020年に世界的に有名な医学雑誌で、認知症の修正可能な12にリスク因子(難聴、低教育、高血圧、肥満、喫煙、うつ、運動不足、社会的孤立、糖尿病、過度のアルコール消費、外傷性脳損傷、大気汚染)の中で、難聴が最も影響の大きい要素であると報告がありました。

そのような中で、難聴のある高齢者の認知症発症に対する補聴器の効果を評価する大規模な試験(ACHIEVE研究)の結果が2023年に公表されました。
聴覚介入(補聴器+聴覚カウンセリング)を行った群と、健康教育(生活習慣病などの予防)を行った群に分けたところ、認知症リスクの高い方(ARIC研究という動脈硬化のリスクを調査されている集団=高齢で認知機能低下のリスク因子が多い集団)に限定すると、聴覚介入した期間が長いほどコミュニケーション能力が向上し、3年後の認知機能の低下が48%抑制されたことがわかりました。

 

以上より、きこえに関する予防医療として、

①難聴にならないようにすること

②難聴になってしまったときに認知症にならないようにすること

が挙げられます。

 

きこえが悪くならないための対策

遺伝的要素以外は後天的な要素となるため、若いころからきこえが悪くなるような要素は避けることが大事です。

生活習慣病にならないよう食事や運動に気をつける】ことは大事ですが、耳に一番影響があるのは、【大きな音を避ける】ことです。

スマートフォンの使用や動画配信サービスなどでイヤホンを使用する機会が増えており、大音量で聴いたり、長時間聴いたりすることで難聴になる方が増加しているようです。
これをイヤホン難聴と呼び、慢性的な感音難聴になるため、内服治療での改善は期待できません。

WHO(世界保健機関)の報告では、80dB(小児では75dB)以上の音圧で1週間当たり40時間以上聞き続けると難聴を生じる危険があるとのことです。
80dBとは電車内や地下鉄の車内で聞く音であるため、イヤホンで電車内の雑音を上回る音量を聞き続けると難聴のリスクが高まるということになります。

よって、適切な音圧(最大音量の60%以下が推奨)で聴くこと使用時間を減らすこと(1日1時間未満が推奨)、ノイズキャンセル機能の活用が重要と言われています。

また、機械音の大きな工場や飛行場など100dB近くの騒音環境で働いている方は、耳栓をするなどの工夫も必要となります。

 

きこえが悪くなったときは早めの補聴器

実際にきこえが悪くなってしまった場合は、耳鼻科を受診し、聴力の評価を受けるようにしましょう。

会話で大事な周波数(1,000Hz前後)の聴力の平均(4分法)が40dB以上になると、日常生活でも困り始めます。その場合は早めの補聴器を検討した方がいいでしょう。

補聴器をつけていると年老いているようにみられる、高額なのに補聴器をつけてもすぐに聞こえない、など補聴器にマイナスのイメージをお持ちの方が多いです。
しかし、難聴をそのままにしておくと認知機能や社会活動にも悪影響が出てしまいます。

先にお伝えした研究の通り、生活習慣病(糖尿病や高血圧)をお持ちのご高齢の方は、認知症発症のリスクが高いため、早めの聴覚介入(評価と補聴器使用)を検討していきましょう

 

*当院でも聴力の評価、補聴器の作成やフォローができます。【補聴器外来】のページを参照されてください。

 

以上、難聴の予防、難聴による認知症予防について解説しました。

耳鼻科領域は健康な時は何も意識しないのですが、悪くなって初めて日常生活の辛さを実感することが多いです。予防を心掛け、症状があるときは早めの評価、治療を受けるようにしましょう。

 

参考文献

・太田有美. 加齢性難聴の病態と対処法. 日老医誌57, 397-404, 2020. 

・Livingston G et al. Dementia prevention, intervention, and care : 2020 report of the Lancet Commission. Lancet, 396: 413-446, 2020.

・Lin FR et al. Hearing intervention versus health education control to reduce cognitive decline in older adults with hearing loss in the USA (ACHIEVE): a multicentre, randomised controlled trial. Lancet 402, 786-797, 2023.

・内田育恵. 難聴へのアプローチと認知症. ENTONI 258: 39-43, 2021.

・鈴木淳. Hidden hearing lossとは?. ENTONI 258: 56-62, 2021.

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