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予防シリーズ ③声帯の老化

[2025.12.21]

予防医療とは、病気になってから治療を行うのではなく、病気にならないように対策を練る医療のことです。

主な例として、感染症にかからないようにワクチンを打つ、高血圧や糖尿病、肥満にならないように運動や食事に気をつける、などが挙げられます。

そこで、耳鼻科領域での予防医療は何か?を考えてシリーズ化してみました。

今回は声帯の老化についてです。

 

声を出す仕組み

息を吸うとき、口や鼻から吸い込んだ空気はのど・気管を通り肺に入ります。

反対に、息を吐くときは肺から気管・のどを通り、口や鼻から空気が出ます。

この息を吐くときに、のどの中にある声帯が閉じ気道の一部が狭くなることで声が出る(=発声)ようになります。
口笛で例えると、口を開けていては口笛の音はでませんが、口をすぼめることで口笛ができます。狭いところを空気が通る時に音が出るという仕組みです。

声帯から出てきた声を、口や咽頭の形状を変えることで言葉として発することができます。これを構音と呼びます。

 

声帯のはたらき

発声

上で述べたように発声は声帯の一番大きなはたらきです。

左右の声帯が中央で適度に合わさり、声帯の粘膜が振動することでいい声がでます。
発声時の声帯の粘膜は、男性は1秒間に100回ほど、女性は1秒間に200回ほど振動します

呼気の量の調整で声の大きさが変わり、声帯の緊張度によって声の高さが変わります。
またしっかり声帯が閉じることで、長く安定した声が出るようになります。

声帯の動きがよくない場合や、声帯粘膜が赤く腫れうまく粘膜が振動しない場合に声がかすれてしまいます。

 

誤嚥(ごえん)防止

食事の時にむせた経験のある方は多いと思いますが、嚥下(えんげ)(=飲み込みの動作)の際にむせないように、のどは様々な動きをしています。
その一つとして、飲み込む際に声帯を瞬間的に閉じ、食べたものが気管に入らないようにしています

声帯の片方が動かなくなる片側声帯麻痺がある方の一部に、食事の際にむせやすくなることがあり、声帯が嚥下時に閉鎖できることは安全に嚥下するために非常に重要です。

 

風邪をひいた時やむせたときに咳がでますが、このときも声帯がはたらいています。
声帯がしっかり閉鎖することで、気管から声帯下方の圧(=声門下圧)を上げ、爆発的に呼気を出すことで、異物や痰を体外に出せるようになります。

 

呼吸

声帯が位置する喉頭は空気の通り道でもありますが、ただ空気を通しているだけでありません。
吸気時には声帯が開き、発声時には声帯が閉じる、と上で述べましたが、呼気時にもわずかに声帯が内側に動いています(内転しています)。
これは息を吐くときに気道をわずかに狭くすることで、肺胞が虚脱しないようにしていると言われています。

例えば、風船が完全にしぼんでから空気を入れようとすると余計に力が必要ですが、しぼむ前に空気を入れるとそれほど力が必要ではありません。
このように声帯が絶妙な動きをして呼吸を調整しています。

また、重い物を持ち上げたり、便を出したり、いきむ時にも声帯が閉じ、肺を膨らませることで胸郭が安定し、力が入りやすくなっています。

声帯の老化

声帯は粘膜と筋肉(甲状披裂筋)で構成されています。

年齢とともに粘膜と筋肉がやせてくるため、のどの老化は50歳前後より起こると言われています。ただ、声の専門施設では30代に入る頃から声が徐々に衰え始めているとも考えられています。
特に、退職後に会話をする機会が減った男性、更年期を迎えた女性に増える傾向にあります。

声帯が瘦せてくると、声帯が閉じにくくなったり、声帯の粘膜の振動が弱くなったりしてしまい、声がかすれやすくなります。また声の高低の調整がうまくいかなくなり低音化します。カラオケで高い声が出なくなった、高い声で声がかすれる、などが特徴的な症状です。

次回以降で解説しますが、声帯の老化にて飲み込み(嚥下)の際にむせやすくなることもあります。

 

声帯の老化の予防

声帯の確認

まずは声帯に病変がないか確認が必要です。
声帯ポリープや喉頭がんなど、声帯に何らかの病変があって声がかすれている可能性もあるため、喉頭ファイバー検査による確認をお薦めします。

 

声帯に明らかな病変がなく、ご年齢に伴う声帯変化がある場合は、以下の「してはならないこと」、「した方がいいこと」を実践していただければと思います。

してはならないこと

 (1)誤った発声行動を控える

 声帯に負担のかかるような話し方(大声で話す、長時間話し続ける)は控えましょう。持続的な発声で17分、朗読で35分を超えると声帯組織の損傷が進むとの報告があり、30分程度で休憩を取るなど、声帯を休める時間を作りましょう。
また、頻回に咳払いをするのも声帯にダメージが加わりやすくなるため、咳払いの原因になりうる疾患の治療をしっかり受けましょう。
ささやき声なら声帯に負担がかかりにくそうと思われがちですが、適切な呼気量で適度な有響音を出さないと変な癖がついてしまいますので、ささやき声で話し続けるのは控えましょう。

(2)生活習慣の是正

胃酸の逆流がのどの炎症を引き起こし、声がれや慢性的な咳、咳払いの原因になっていることがあります。胃酸逆流が増えるような脂肪分の多いもの、カフェイン・炭酸飲料など刺激物などは控えるようにしましょう。また、就寝前の2−3時間前の飲食は避け、食後すぐに横にならないようにしましょう。
禁煙も重要です。   

 

した方がいいこと

家庭でできる声帯強化の訓練をしましょう。

(1)口すぼめによる発声

口をすぼめて発声することで、口や声帯の上の圧(声門上圧)を高めることができます。のどの容積(咽頭腔)を拡げ、喉頭が下垂することで声帯に流れる呼吸量が適正化され、声帯粘膜の振動がよくなると言われています。

一息で「ノー↑」と小さい声から大きい声、さらにもう一息で「ノー↓」大きい声から小さい声を出してみましょう。

 

(2)ストローを用いた発声

適度な太さのストローを加え、ストローを介して発声します。疑似的に声の通り道が伸びることで発声の効率が高められると言われています。

ストローを水につけて発声する方法もあり、呼気が泡となって見えるため、安定した呼気や口の振動を確認でき、声帯への緊張が和らげられると考えられています。

これらの訓練は音声治療のSemi-occluded vocal tract exercise (SOVTE)と呼ばれるもので、通常は言語聴覚士の指導の下、行われるものですが、より簡便にできるものを抜粋して提示しました。10回を1セットとし、1日2~3セット行うつもりでされてください。

 

以上、声帯の老化の予防について解説しました。

耳鼻科の関係する耳、鼻、のどといった器官は、正常に働いて当たり前と思って生活されていると思いますが、ちょっとしたことでその機能が落ちると極端に生活の質が下がってしまいます。声の不調もその一つで、声帯の老化が進まないよう、日ごろのケアを大事にしましょう。

 

参考文献

・渡邊雄介 著. フケ声がいやなら「声筋」を鍛えなさい. 晶文社, 2018.

・金子真美. 音声障害のリハビリテーション. MB ENT, 303: 71-78, 2024.

・金子真美. 【トレーニングを始めるための基礎知識】音声治療, JOHNS, 40(11): 1357-1359, 2024.

・佐藤剛史. 【私はこうしている―外来におけるトレーニング】声帯炎、声帯結節に対する音声治療. JOHNS. 40(11): 1369-1371, 2024.

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