インフルエンザについて
新型コロナウイルス感染症により、一時的に流行が抑えられていたインフルエンザがまた猛威を振るうようになってきました。
同じ時期に2回かかったり、ワクチンを打っていてもかかったり、いろいろな疑問があると思いますので、今回はインフルエンザの特徴についてまとめてみました。
インフルエンザとは?
インフルエンザウイルスによる呼吸器(のど、気管、肺)の感染症です。
鼻水やのどの痛み、咳などのかぜ症状に加え、38度以上の発熱、だるさ、頭痛、筋肉や関節の痛みなど全身の症状が強く起こり、いわゆるかぜよりも強い症状が起こります。
潜伏期間(感染して症状がでるまで)は1~4日(平均2日)です。
感染経路は、感染した方のくしゃみや咳に混じった飛沫から感染する飛沫感染、また飛沫を触れた手を介して感染する接触感染があります。
ウイルスのタイプ
インフルエンザウイルスにはA型、B型、C型、D型と4つのタイプに分かれており、人間に感染するのはA型、B型、C型です。
C型は一度かかると免疫力がつくため、二度とかからないと言われており、問題になることはありません。
よって、大きな流行が起こるのはA型、B型です。
A型の中には、ウイルスの表面のタンパクの種類によりたくさんの亜型があり、とくに現在は、H1N1型、H3N2型がよく流行しています。これらは毎年のようにウイルスが少しずつ変異するためであり、人間の免疫力をすり抜けて繰り返し感染が起こります。
B型には山形系統とビクトリア系統の2種類があり、変異はしにくく毎年のようにはかかりにくいようですが、新型コロナウイルス感染症による免疫力の変化で、2023年~2024年はかなりの流行があるようです。
A型、B型の感染による症状の違いはほとんどありません。
このように、同じインフルエンザウイルスに分類されていても、その中にはたくさんの種類があり、同一シーズンでA型にかかった後にB型にかかることもしばしばみられます。
インフルエンザの検査
外来で行える検査としては、ウイルスの抗原迅速検査が一般的です。鼻から綿棒を入れ、鼻咽腔の粘液を採取します。
しかし、この検査の精度(感度62%、特異度98%)と高くなく、偽陰性(感染しているのに陰性と出てしまう割合)が高い検査です。
発熱などの症状が出てすぐに検査をしても陰性と出ることが多いため、12時間~24時間くらい発熱が続く、など症状の推移を見守ってから検査を受けるか考えましょう。
*検査陰性であっても周囲の流行状況に応じて臨床的にインフルエンザと診断することもあり、流行期の検査の必要性について問われていた時期もありました。
しかし、ここ最近は新型コロナウイルス感染症や溶連菌感染など、様々な病原体も流行しているため、適切な治療、療養期間の確保のためには検査は必要と考えられます。
*最近話題となっている「インフルエンザ濾胞」を検出する検査機器が登場し、抗原迅速検査ではまだ陽性と出にくい時期にインフルエンザと診断できるかも、と言われています。
インフルエンザ濾胞とは、のどの後ろの壁にリンパ濾胞と呼ばれるリンパ組織がイクラのように並んでみられるものです。
当院では採用しておりませんが、抗原迅速検査のような綿棒を鼻から入れられるというつらい検査ではないため、将来主流の検査となるかもしれません。
インフルエンザの治療
・ゆっくり休養を取る
インフルエンザは学校保健法により、発症日(0日目)から5日経過するまで休む必要があると定められています。
学生ではない社会人の方には規則がありませんが、流行しやすいウイルスでもあるため、学校保健法に準じて休むよう説明しております。
・抗ウイルス薬を使用する
幼児、基礎疾患があり重症化リスクが高い方、呼吸器症状が強い方は、肺炎、中耳炎、副鼻腔炎などの二次細菌感染を併発することがあるため、インフルエンザの増殖を抑える抗ウイルス薬を使用しております。
その効果は、抗ウイルス薬を使用しない群と比べて、発熱期間や上気道症状の回復が約1日早まると報告されています。
副作用は嘔吐、下痢が多く、薬剤耐性ウイルスの出現なども危惧されており、安易な使用は控えるように、との報告があります。
*異常行動について
タミフルなど一部の抗ウイルス薬の副作用として、異常行動(例:興奮して走り回る、ベランダから飛び降りようとする・・など)が起こると言われていた時期がありましたが、現在は薬との因果関係は不明とされています。
インフルエンザによる症状として認識されており、小児・未成年者の方には、発症後2日ほどは1人にならないように保護者の方は注意して見守っていただければと思います。
インフルエンザの予防
・一般的な予防法
マスク、手洗いによりウイルスが感染しないよう心がけましょう。十分に休養を取り、栄養のある食事をとりましょう。室内ではこまめに換気をするようにしましょう。
・ワクチンを接種する
ワクチンの有効性を示す指標にワクチン有効率(VE:vaccine effectiveness)があります。
「ワクチンを打たなかったときに発病した人数が、ワクチンを打ったら何%減ったか」というものです。
インフルエンザワクチンに関しては、年によって差がありますが、おおむねVEが40~70%と言われています。
新型コロナウイルス感染症のワクチンはVEが約90%、変異株でも70~80%と報告されており、インフルエンザの方が低く感じるかもしれません。
しかし、インフルエンザワクチンのVEが60%だとすると、ワクチンを打たなかったときに100人発病するところ、ワクチンを打つことで発病が(100-60=)40人にまで減らせることになるため、接種の効果は十分にあると思われます。
ワクチンを打ってもインフルエンザにかかってしまうことはありますが、重症化を抑える効果はあるため、毎年積極的にワクチンを接種するようにしましょう。
・曝露後予防
家庭内など感染した方の近くにいて、まだ症状がまったくない時期に、仕事の都合などでできるだけ発症したくない方は、抗ウイルス薬を内服することで発症のリスクを10%ほど減らせると言われています。
完全に発症しないわけではないため、上で記載した一般的な予防も行う必要があります。
ただし、予防目的で使用する場合は、自費診療となります。
最後に
新型コロナウイルス感染症の影響で、免疫力に変化がみられ、夏から長期にわたる流行がみられるようになっています。
感染症にかからないよう、マスク、手洗いなど細かい感染対策を心がけるようにしましょう!
参考文献
・かぜ診療マニュアル, 山本舜吾 編著, p196-227
・総合診療2022, Vol32,p188-191
・厚生労働省HP