いびきについて
「家族にいびきがうるさい」、「旅行に行くのにいびきで周りに迷惑をかけないか心配」と言われて受診される方がよくおられます。
今回はいびきについて、検査や対処法について説明します。
いびきとは?
いびきとは、睡眠中の呼吸の気流が、上気道(鼻・口~のど)の狭くなった部位の粘膜を振動させている起こる音です。
男性に多く見られ、女性は閉経後に増える傾向にあります。
いびきが起こりやすい原因は、肥満による上気道の脂肪沈着、扁桃肥大、顎形態異常などが言われています。日本人は欧米人と比較して顔面、とくに下顎が後退しているため、口の中の舌がのどの方向に後退し、上気道が狭くなる傾向にあります。
いびきの診断
いびきは自分で気がつく方は少ないため、他の方に指摘されて気づくことになります。そのいびきが病的なものかどうかが重要です。
いびきのみであれば、上気道が狭くなりつつも呼吸ができていることになりますので、保険診療上は病気の扱いとなっていません。
上気道が完全に閉塞してしまうと無呼吸(呼吸をしようとしても上気道に気流が通らない状態)になってしまうため、いびきのある方は睡眠時無呼吸症があるかどうかが非常に重要です。
睡眠時無呼吸症に対しては、睡眠検査(睡眠中の呼吸状態を調べる検査)で診断することになります。その検査で無呼吸(10秒以上の気流停止)がどのくらいあるかを調べ、1時間当たりで5回以上の無呼吸があれば「睡眠時無呼吸症」と診断されます。1時間当たりの無呼吸が5回未満であれば、「単純いびき症」と診断されます。
いびきの原因となる部位
いびきを生じやすい部位は大きく分けて3か所あります。
1)鼻腔 2)軟口蓋周囲 3)舌根部 です。
以下に部位別の説明をしますが、1か所のみが原因というよりも複数の箇所が複合的に関与して、いびきになっていると言われています。
1)鼻腔
鼻中隔弯曲症(左右の鼻を隔てる軟骨でできた壁が、一方の鼻に突出して曲がり鼻閉を起こす疾患)、アレルギー性鼻炎、鼻茸を伴う副鼻腔炎、鼻腔の腫瘍など、鼻づまりを起こしやすい状態になると口呼吸になり、口蓋垂(のどちんこ)などの振動によるいびきが起こりやすくなります。
2)軟口蓋周囲
口蓋扁桃肥大、アデノイド増殖症など軟口蓋周囲が物理的に狭い、または口蓋垂の長さが長く仰向けで寝るとのどに落ち込みやすい、などが原因で粘膜の振動が起こりやすくなります。
3)舌根部
舌は下顎に付着する筋肉に支えられているため、睡眠による筋肉の緩みに加え、仰向けで寝ると下顎や舌の重みで、舌根部がのどの方向に落ち込みやすくなります。さらに顎が小さい、口呼吸などが重なると、舌が後退しやすくなり、上気道が狭くなります。
これまで睡眠時無呼吸症の患者さんに対して、どの部位が原因なのか調べる研究もされています。
睡眠薬投与下で内視鏡検査を行うもの、睡眠中にMRI検査を行うもの、いびき音の解析などがありますが、睡眠中の検査は難しく一般外来でできる検査はありません。
いびき音の音響分析では、軟口蓋の振動が原因の場合は100Hz未満の低い周波数の音、舌や扁桃が音源となる場合は330Hz前後の音になる、との報告もあるようです。
また、年齢によって原因部位は異なります。
幼少期は扁桃肥大、アデノイド増殖症でいびきになることが多く、さらに鼻かぜやアレルギー性鼻炎にて鼻づまりが加わると、いびきがよりひどくなります。
そのため鼻腔~軟口蓋レベルのいびきが多くなります。
成人になると、肥満+舌やのどの筋肉のゆるみも加わるため、口蓋垂や舌根部の後退が起こりやすくなります。そのため軟口蓋~舌根部レベルでのいびきが多くなります。
いびきは体によくない?
習慣的にいびきのある人は10年後の糖尿病の発症率が有意に高くなるという報告、いびきの振動により内頸動脈の硬化が起こりやすくなるという報告があります。(この中に睡眠時無呼吸症の方も含まれている可能性は大いにあります。)
単純いびき症は睡眠時無呼吸症に連続する疾患であるため、睡眠時無呼吸症にみられる合併症(脳血管障害や心血管障害(高血圧や狭心症、心筋梗塞)など)のリスクが上がる可能性があります。
また、いびきの騒音によって一緒の部屋で寝ている人の睡眠障害の影響もあると言われています。
いびきへの対応
先に述べたように、まずは睡眠時無呼吸症があるのかを調べる検査を受けた方がよいでしょう。
検査を受け、単純いびき症(1時間当たりの無呼吸回数が5回未満)と診断された方は、保険診療上は病気の扱いではないため、口腔内装置(マウスピース)などをご希望されてもすべて自費で対応するしかありません。
いろいろな要素が複合的に関与しているため、必ず有効という方法はありませんが、以下の方法をお薦めします。
横向きで寝る(側臥位睡眠)
仰向けで寝ると口蓋垂や舌根部の咽頭への落ち込みが強くなるため、横向きになって寝るようにしましょう。
ただ寝ているときに意識して横向きになって眠ることはできないため、何かしらのグッズを使用する必要があります。
背中にポケットを付けテニスボールを入れ仰向けにならないようにするテニスボール療法は有名です。ほかに抱き枕などもあります。
最近では横向き睡眠用の枕(普段の枕よりも5cmほど高い枕)などもあるようです。(私もこの枕を購入し、いびきの減少とともに首の凝りも取れてきました。「お、値段以上」の効果がありました!)
鼻の治療をする
いびきが起こる部位として、鼻腔、軟口蓋周囲、舌根部を挙げましたが、筋肉の緩みや下顎の骨格を変えるような薬はないため、薬の治療の対象となるのは鼻が中心となります。
鼻づまりがある方はしっかりと原因を特定し、治療を受けましょう。
特に幼少期は鼻炎やアデノイド増殖症を持っている方が多く、ステロイド点鼻薬やアレルギー治療薬が有効との報告もあります。幼いうちは鼻の治療を積極的に行いましょう。
体重のコントロール
体重を減らすと睡眠時無呼吸の回数が減るという報告があります。いびきも減る可能性は十分あるため、標準体重よりも太っていると感じている方は体重減少に努めましょう。
痩せられない理由を「運動していない」ことと考える人が多いようですが、多くの肥満は「食事の量が多い」ことに原因があるようです。
ちょこっと運動して消費カロリーを増やしても、少し間食するだけであっという間に摂取カロリーが消費カロリーを上回ってしまいます。
肥満の方は食事摂取カロリーを少なく申告し、運動量を多く申告するとの報告もあるようです。
まずは間食をなくすことから始めましょう。
アルコールを控える
アルコールは上気道の筋肉の緩みを起こし、いびきの原因となります。
またアルコールは一見寝つきはよくなったようにみえるものの、中途覚醒も増え睡眠の質を下げてしまいます。
できるだけ控えるようにしましょう。
以上、いびきについて解説しました。
風邪をひいているときのみ、アルコールを飲んだときのみ、などいつもいびきが起こるわけでなければ心配はいりません。
ただ、昼間に眠気を感じる、眠気で仕事に集中できないなど、睡眠時無呼吸症を疑う症状がある場合は早めに対応した方がいいでしょう。お気軽にご相談ください。
参考文献
- 宮崎泰成、秀島雅之 編:いびき⁉眠気⁉睡眠時無呼吸症を疑ったら, 羊土社
- 富田康弘:よくわかる睡眠時無呼吸の診かた、考えかた, 中外医学社